イオントラップとは
イオントラップとは、要は荷電粒子を限られた空間内に閉じ込める装置です。一応、荷電粒子なら何でもよいのですが、イオンを閉じ込める(トラップする)ことが多いので、イオントラップといいます。使用される範囲は、本研究室の目的である原子イオンの分光の研究のほか、質量分析器や放射光施設の電子のストレージリングも含まれます。
イオントラップの方法
荷電粒子ですから、電場や磁場を使います。残念ながら、静電場だけではトラップできません(Earnshawの定理)。その理由は、Gaussの定理によると、電荷が無い空間では、ある閉空間に入った電気力線は必ず外へ出なくてはならないため、その閉空間の表面ですべての電気力線が内側を向くことが無いからです。
そこで、主に次の2つの方法があります。
・交流電場を使う(rfトラップ またはPaulトラップ)
・静電場と静磁場を使う(Penningトラップ)
本研究室では、rfトラップを使った研究をします。というのも、磁場が無いほうがいいことが結構あるからです。
イオントラップの応用例
質量分析器や放射光施設の電子のストレージリングのほか、最近有名なのはゲート式量子計算機や原子時計です。
本研究室での目的
レーザー冷却したバリウムイオンの精密分光を目的としています。励起したイオンからの自然放出光を高分解能で分光しようとしています。
可視光のあたりにある自然放出光のスペクトル線は、常温では発光原子の熱運動によるドップラー効果によって広がります。これをレーザー冷却で極低温にすると、ドップラー効果による広がりが小さくなり、自然幅と呼ばれるスペクトル線幅になります。この自然幅は、遷移の上準位の寿命で決まるので、避けることができません。
先ほど応用例で述べた量子計算機への応用を考えた時、最大の敵は「デコヒーレンス」です。つまり、量子状態を「どれだけ長い時間保つことができるか」という時間との勝負になるわけです。イオントラップ中の冷却イオンは比較的長い時間量子状態を保つことができるので、量子計算機実現の有力な候補になっているわけです。
自然幅は、最終的なデコヒーレンスの原因となります(つまり、ラスボス)。というわけで、量子計算機実現のために、まず「敵を調べよう」ということで、自然放出光の精密分光をやってみようとしています。
本研究室のrfトラップ
rfトラップ中のイオン数は少ない(数個とか)ので、自然放出光も微弱です。しかも、自然放出光はすべての方向に放出されます。これをなるべくたくさん集めたいので、rfトラップも従来とは違ったものを作っています。通常、rfトラップは周りに電極があって、イオンをその隙間から見るのですが、本研究室では細い電極でスケスケのイオントラップを作っています。
真ん中の細いワイヤーが電極になっています。イオンからの自然放出光が電極にほとんど遮られないので、検出効率を向上させることができます。このトラップでバリウムイオンをトラップでき、レーザー冷却もできました。下の写真の中央部の白いのがレーザー冷却されたバリウムイオンです。今後、さらに改良する予定です。
