最近の研究
- 第一原理XPS計算によるSi中のホウ素(B)クラスターの同定
シリコン結晶中のドーパント(B,. P, As, など)の挙動は、半導体デバイスを設計製造する上で非常に重要な意味を持ち、古くから多くの研究がなされてきました。最近では、デバイスの微細化に伴い、高濃度のドーパントが導入されるようになってきています。ドーパントが高濃度になると、ドーパント原子同士が凝集し、いわゆるクラスター化が起こります。とくにBでは、元素の性質からSi結晶中で二十面体、八面体など興味深い形態をとるのではないかと実験、理論両面から提案されてきました。これらの結晶中のクラスターは、母体となるSi結晶に比べて濃度が低く、実験シグナルも微弱なため、実験的には難しいものです。ところが、最近、高輝度放射光施設を用いて、X線光電子分光(XPS)測定において、弱い信号を入力強度の増強で補ってやろうという試みが、東工大の筒井グループらによって行われるなど、発展の兆しが見えています。
一方で、理論面では信頼に足る計算は行われていませんでした。本研究では、この原因が計算モデル系における境界条件の評価が不適切であることによることを明らかにし、境界条件を吟味したΔSCF法を用いて極めて高精度な第一原理XPS計算を行い、実験データとの比較から、Bクラスターの形態を同定することに成功しました。
下図がその結果の一部で、曲線は実験値ならびに実験値から抽出されたピーク、縦線が二十面体(ICO)B12等の第一原理計算によるスペクトルです。
参考文献: JY, Y. Yoshimoto, and Y. Suwa, Appl. Phys. Lett. 99 191901 (2011).
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- Si結晶薄膜における有効質量異常
- 半導体デバイス(MOSFET)の性能を決定する重要な構成要素として、チャネルがあげられます。これはキャリア(電子、ホール)の通り道となっていて、チャネルを通る速度がデバイスの動作速度に直結します。最近ではこのチャネルは薄い板状のものが多くなっています。板の厚さがnmオーダーになり、いわゆるナノ構造といわれる領域になってくると量子力学的な効果が重要になってきて、大きな塊(バルク)とは異なった電子的な特性を示します。性能向上の要求から最近ではチャネルに人為的に歪を印加することも行われています。一方、電気伝導に重要な物理量としては、有効質量というものがあります。真空中では電子の質量はご存知のように一定ですが、結晶中では結晶格子の影響により、単に真空中と異なる値を取るだけでなく、符号が変わったり、異方性が生じたりします。従って、有効質量は一般にはテンソルとなります。
ナノ構造において、歪と薄膜の厚さをパラメタとして、電子の有効質量を第一原理的に計算し、ある種の状況下では、有効質量が発散することを突き止めました。下図は(111)基板における縦方向有効質量です。ある曲線にそって、有効質量が発散することが分かります。
日本語解説:山内 淳「固体物理」 43 289 (2008).
