研究テーマ
蛋白質(ナノマシン)の構造解析、構造機能解析

 蛋白質が生体内に存在することが明らかになってから、蛋白質の立体構造は不定形なのか、あるいは特定の構造を持つのかといった議論がなされた。1925年に蛋白質の分子量決定が行われ、1928年にウレアーゼの結晶化が行われたことにより、蛋白質が特定の立体構造を持つことが認識されるようになった。この約2年後にはペプシン結晶のX線回折パターンが得られている。X線回折実験による生体高分子の構造研究が脚光を浴びるのは、1953年にDNA二重らせん構造、ミオグロビンとヘモグロビンの低分解能X線結晶構造が発表されてからである。そのような黎明期から約50年を経て、30000以上の蛋白質の立体構造がX線結晶構造解析実験によって明らかにされてきた。蛋白質の立体構造解析は、生命現象の分子・原子のレベルからの理解、蛋白質の構造構築原理の探求といった基礎科学分野に留まることなく、病原蛋白質に対する創薬や蛋白質の工業生産利用などの社会関連分野への波及も期待されている。本研究室では、特異な触媒反応や光化学反応を行なう蛋白質を取り上げて、その構造と機能の関係を探るために生化学、放射光X線を用いたX線結晶構造解析やX線小角散乱実験による研究を行なっている。


X線結晶解析で得られる電子密度図

 


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蛋白質のダイナミクス測定と新たな測定技術の開発

 蛋白質の結晶構造解析における回折強度測定は、構造解析の成否を左右する重要な過程であり、いかに優れた解析プログラムも精度の悪い回折強度データに対しては無力である。かつては数年を要した測定も、現在では、シンクロトロ放射光施設での強力X 線利用、高精度メカトロニクスに支えられた回折計、高感度・高効率X線面検出器、極低温下での放射線損傷低減、洗練されたデータ処理ソフトウエアの利用などによって、空間群の決定、数万から数百万にも及ぶ回折斑点の回折強度算出までを数時間〜1日程度で行えるようになってきた。本研究室では、主に低温X線回折実験における技術開発によって大型放射光実験施設(SPring-8)での生体高分子の構造研究に貢献してきた。また、本研究室では、大型放射光実験施設(SPring-8)において得られる比較的輝度の高いX線を用いて、X線光子相関分光測定やX線回折顕微鏡法による構造研究を試みている。試料に入射するX線のコヒーレンスを高めて、X線スペックル散乱パターンを取得し、蛋白質の運動性などを計測することを目標としている。また、X線から離れて、原子間力顕微鏡観察によって分子運動観測の可能性も探っている。


低温X線回折実験の装置レイアウト



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X線回折と分子動力学による蛋白質の水和構造解析


 近年、低温蛋白質結晶構造解析は蛋白質構造決定における重要な手法となっている.この方法の最大の特徴は、蛋白質結晶を100K程度に保つことによって、X線照射で生じるラジカルの拡散を抑制し、蛋白質結晶の放射線損傷を大幅に低減できることにある.その結果、室温下では放射線損傷が著しいために構造解析が不可能な蛋白質結晶でも容易に回折強度データ収集が可能となる.特に、大強度X線の利用が可能な大型放射光ビームラインでは、本手法が不可欠になっている.またこの手法は、従来観測が困難であった蛋白質の水和構造や蛋白質の反応中間状態の構造決定にまで威力を発揮しつつある.この手法で得られる蛋白質の水和構造を独自のプログラムコードを開発して解析を行っている。また実験と相補的に分子動力学計算やデータベース解析を実施し、蛋白質水和構造の時間変化や蛋白質の運動に伴う水和構造変化の詳細について検討を行っている。


抗体分子への抗原結合に伴う立体構造変化および水和構造変



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SPring-8およびXFELにおけるX線散乱実験装置の開発


 X線自由電子レーザー(XFEL)のバイオサイエンス分野利用では、超分子複合体、細胞内小器官などをナノからサブナノメートル分解能で立体構造解析する単粒子解析に大きな期待が寄せられているところである。この構造解析は、サブミクロンサイズのXFELパルスビーム照射野にサブミクロンサイズの生体分子あるいは粒子を歩留まり良く導入して、ダイナミックレンジの広い検出器によって散乱強度測定し、オーバーサンプリング法と位相回復アルゴリズムを用いた像回復を行うものとされている。しかしながら、このXFEL生体分子・粒子単粒子解析のために不可欠な照射野における単粒子操作技術が実用段階にあるわけではない。本研究室では、生体分子や生体粒子のXFELビーム照射野への導入・制御に資する技術を関連分野において広く調査し、XFEL生体単粒子解析に向けたクライオ試料固定照射装置を開発中である。XFEL単粒子構造解析は、細胞内のサブミクロンから数十ナノメートル領域における生命現象理解に欠かせない分子集合体の相互作用形態についての情報を提供し、生物学の新たな進展をもたらす可能性が高い。また、試料の取り扱いについて制限の多い生体粒子の位置・制御技術が確立されれば、その技術を試料制限の少ない物理化学やナノテクノロジー分野での単粒子解析に還元することは容易に可能であろう。


蛋白質分子からのスペックル散乱パターン(シミュレーション)


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