光ファイバーベースの周波数コムを使った計測

1.コムの役割

2000年頃にHänsch博士とHall博士によって開発された光周波数コムは、光周波数を高精度で測定できる周波数のものさしである。 一般に周波数カウンターで測定できる周波数は、せいぜい数GHzのRF周波数であり、光周波数を測定するには周波数チェーンと呼ばれる巨大で技術的難易度の高い装置が必要だった。 光周波数コムの登場により高精度光周波数計測が格段に容易になった。 光周波数コムはモード同期レーザーで、周波数領域では発振モードが等間隔に並んでいる(図1)。

図1: 光周波数コムの概念図

この間隔は繰り返し周波数frepと呼ばれる。 発振モードを仮想的に0 Hzまで外挿したときの余りの周波数をキャリア・エンベロープオフセット周波数fCEOと呼び、コムのn番目のモード周波数νnはνn=n frep + fCEOとなる。 frepとfCEOは数10 MHz〜数 GHzのRF周波数である。モード番号nは整数で、波長3.4 μmの中赤外では106程度である。 frepとfCEOをGPSで受信した国際原子時に安定化すると、光周波数(νn)も絶対周波数が値付けられる。

2.ファイバーコムの利点

現在光周波数コムとして、固体レーザーあるいはファイバーレーザーが使われる。 本研究室では共振器が全て光ファイバーで構成されているファイバーコムを製作した。 ファイバーコムは安価で、メンテナンスが容易、環境変動に堅牢などの利点があり操作が比較的簡便な装置である(図2)。

図2: ファイーバーコム

3.現在の佐々田研でのコムの使用方法

(1)周波数カウンターとしての利用

差周波発生用レーザーの周波数を分子の吸収線に安定化し、そのときのレーザー周波数をコムで測定する1(図3)。

図3: 周波数カウンターとしてのファイバーコム

(2)参照周波数としての利用

コムに差周波発生用レーザーの周波数を安定化し、コムのfrepを変化させて中赤外光の周波数掃引をする。 周波数ドリフトがないため長期積算が可能で感度が向上する。 また、観察したスペクトルの横軸は絶対周波数になる(図4)。

図4: 参照周波数としてのファイバーコム

参考文献

  1. K. Takahata, T. Kobayashi, H. Sasada, Y. Nakajima, H. Inaba, and F.-L. Hong, "Absolute frequency measurement of sub-Doppler molecular lines using a 3.4-μm difference-frequency-generation spectrometer and a fiber-based frequency comb," Physical Review A, 80, 032518 (2009).
  2. S. Okubo, H. Nakayama, and H. Sasada, "Hyperfine-resolved 3.4-μm spectroscopy of CH3I with a widely tunable difference frequency generation source and a cavity-enhanced cell: A case study of a local Coriolis interaction between the v1 = 1 and (v2,v6l) = (1,22) states," Physical Review A, 83, 012505 (2011).
  3. K. Iwakuni, S. Okubo, and H. Sasada, "A novel frequency control scheme for comb-referenced sensitive difference-frequency-generation spectroscopy," Optics Express, 21, 14832-14840 (2013).