大橋洋士理論研究室

Research Area
研究分野

凝縮系物理学理論

我々は、理論研究室の1グループとして粒子間相互作用が重要な役割を果たす量子凝縮系の物性研究を行っています。

超伝導・超流動理論

超伝導現象は量子効果が巨視的スケールで実現する現象として興味深いだけでなく、電気抵抗0で電流を流せるという画期的性質を持つため、産業界、環境問題にとっても重要な研究対象です。
当研究室では21世紀のテクノロジーとして期待される高温超伝導の物性、発現機構の解明を目指しています。室温超伝導の発見は人類社会を革新的に進歩させることでしょう。我々はその可能性を理論的に追求します。

フェルミ原子ガス超流動と
ボーズアインシュタイン凝縮

2002年に当研究室とトロント大との共同研究で理論的に予言されたフェルミ原子気体の超流動化とBCS-BECクロスオーバー現象が2004年、JILA、MITのグループによりカリウム、リチウム原子ガスを用いて実現されました。これにより、超伝導に代表されるフェルミ粒子系超流動とヘリウム4などのボーズ粒子系超流動を統一的に研究することが可能となりました。この成果は当該分野のみならず、物性物理学や、原子核、素粒子、宇宙物理学分野へと大きな広がりをみせています。例えば、人類が未だ行くことができず、観測手段も限られている謎の天体「中性子星」の内部状態も、フェルミ原子ガス超流動の研究から解明できると期待されています。
当研究室は、この発展著しい新しい人工量子多体系の解明と、その秘めたる可能性を理論的に追究しています。

強相関電子系、励起子ポラリトン凝縮などの強相関量子多体系の物性理論

相互作用の強い電子系には一体描像では記述できない様々な現象が潜んでいると考えられています。現代社会は半導体テクノロジーによって支えられていますが、この技術は微細化、高集積化の限界である原子サイズに到達した時点で終焉を迎えます。その先の基盤技術を模索することは基礎科学、特に物理学に課された大きな使命ですが、その候補の一つが強相関量子多体系です。
当研究室では近藤効果、量子拡散や重い電子系で実現する磁性現象、また、近年人工的に作り出された「物質と光の複合粒子系」である励起子ポラリトン凝縮についての理論研究を行っています。

研究室紹介ポスター

Current Research
研究内容

希薄原子気体の高い操作性を活かした
新しい物質科学研究

BCS-BEC crossover in a superfluid Fermi gas

希薄原子気体の最近の研究の発展には著しいものがあり、ボーズ原子ガスにおけるボーズアインシュタイン凝縮(1995年)、光学格子と呼ばれる人工結晶中でのボーズ流体の超流動-絶縁体転移の観測(2002年)、フェルミ原子気体の超流動化の達成(2004年)、光学格子中でのブリルアンゾーンの可視化(2005年)とその勢いはとどまるところを知りません。この系は、粒子間相互作用、粒子数密度、結晶格子(バンド構造)という物質の性質を支配する重要なパラメータを全て自在に制御できるという画期的な性質を有しており、更に、フェルミオン、ボソン、という粒子の統計性の効果ですら自由に調べることが可能という、非常に高い操作性を有しています。当研究室では、原子気体の持つこの特性を最大限活かし、それを物質科学に応用することで、新しい物性研究領域の開拓を目指しています。
希薄原子気体研究の中で、今一番ホットな話題がフェルミ原子気体の超流動で実現するBCS-BECクロスオーバーと呼ばれる現象です。これは粒子間相互作用の強さを自在に制御できるというこの系の特徴を最大限活かして実現された現象で、これにより、超流動4Heに代表される「ボーズ粒子系超流動」と金属超伝導に代表される「フェルミ粒子系超流動」という、従来別々に研究されてきた2つの超流動現象を統一的に研究することが可能となりました。実現した超流動転移温度(Tc)はフェルミ縮退温度の20%に達しており、これは金属超伝導に対応させるとTcが1000度を越える「超高温超伝導」の実現に匹敵しています。 現在、室温で動作する超伝導は発見されていませんが、もしかしたら存在するかもしれなかった「室温超伝導の壁」が実は存在しないことがフェルミ原子ガス超流動実現により明らかとなりました。また、主役となる粒子が原子と電子という違いはあるものの、フェルミ原子ガス超流動の「物理的構造」は金属超伝導と全く同じであり、この系を研究することで室温超伝導へのヒントが得られるかもしれません。少なくとも、フェルミ原子ガス超流動の実現により、室温超伝導が示すであろう物性を今から研究することが可能となったという意義は非常に大きいでしょう。 我々のグループでは特に将来的に重要なフェルミ原子ガス超流動の研究を中心テーマの一つに据えています。 当研究グループがカナダトロント大学のAllan Griffin教授との共同研究で予言したフェルミ原子ガスにおけるBCS-BECクロスオーバーは上述のように2004年に実際に観測され、世界的に注目されました。

講演ファイル

Our Policy
基本方針

研究とは様々な人との議論を通じて行われるものですが、それは独立した研究者としての能力を備えていることが前提であると考えます。当研究室では指導教員の手下としてではなく、研究リーダーとして各人の研究テーマを自主的に実施、「研究のサイクル」を経験してもらうことで、将来、独立して研究を遂行できる研究者、自分の足で立てる社会人の養成を目指しています。研究は通常、1、アイデアに始まり、2、情報収集、3、具体的計算、4、考察、5、論文での公表、という手順で進められます。修士課程では研究のアイデアと情報収集のきっかけをこちらの方で用意しますが、3、4、5は各自で積極的に実施してもらいます。勿論、途中での活発な議論、論文の執筆方法などのアドバイスは行いますが、大事なことは、教官はその研究テーマについては皆さんと同等の「共同研究者」である、という点です。したがって、「私はこう思うのだけれどどうだろうか?」、「自分はこうなると予想していたけど、どうも結果はそうはならない」と言った議論は大いに結構ですが、「先生、次どうしましょう?」という受け身な姿勢は歓迎できません。私自身、自分の研究を院生にやらせて成果を吸い上げよう、とは思っておらず、研究は別途自分主体で実施しています(勿論その内容に興味を持って下さって「私もやりたい」、という積極参加は大いに結構です。)ので、このようにきかれても、「さあ、どうしましょうね」と言うだけです。
修士課程でひととおりの研究の流れを経験してもらった後、博士課程では、研究テーマをアイデアの段階から自身で見つける、という作業をしてもらいます。私は研究テーマの妥当性や「妙な方向」に研究が進まないようにチェックしますが、それ以外は自分で見つけたテーマを「共同研究者」の教官と一緒に遂行してもらいます。こうして大学院の間に研究のサイクルを2回経験してもらい、その後の人生に役立ててもらいたい、と考えています。
以上のような、「自由にできる」は一見楽に思えるかもしれません。しかし、これは同時にきちんとした自己管理が要求される、ということにも留意してください。「自由」は「好き勝手」とは違います。この点に関しては、院生の方は年齢的にはもう社会人ですので、自己管理は各自でしっかり行って下さい。その点さえ押えておけば、他人の手足となって計算するだけ、とは別格の、充実した研究生活が送れることでしょう。「先生にべったり」では研究がうまくいっても教員のおかげ、失敗しても教員のせい、ですが、自分で実施した研究の成果は正に「自分の成果」です(失敗も自分のせいですけどね。)。「やるときはしっかりやって、あとは自由に旅行でもしてこい」というのが個人的な意見です。
当研究室の特徴のもう一つは実験の重視です。当研究室は理論研究室ですが、物性物理学にとって実験は言わば「目」のようなものであり、実験データがなにを意味しているかを知ることなしに健全な物性物理の研究はできないと考えます。院生の方には理論は勿論、実験の論文も抵抗なく読め、実験家とも普通に議論できるようになってもらうことを目指してもらいます。このあたり、「理論」vs「実験」という考え方ではなく、「物理はひとつ」という見識をもってもらいたいと考えます。勿論、理論研究はきっちりやってもらいますけど。

より詳しく知りたい方へのアドバイス

これから大学院に進学される方にとって、研究室/研究分野/指導教員選びは重要な項目であるかと思います。 「実際に入ってみたら予想と違ってひどいところだった」、ということの無いように、少なくとも私の研究室を希望される方はホームページだけで決めてしまわず、実際研究室を訪ねてみてはいかがでしょうか?(一応、ひどいところではない、とは思っているのですけど。)
あるいは実際に会うのはどうも、という方は具体的な疑問/質問をメールや電話で下さっても結構です。
皆さんの大事な時期を過ごすことになる場ですから、当研究室についても、「自分の目でよく調査」した上で選んで下されば、と思います。

教員名:
大橋 洋士
メール:
場所:
22-204B

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