Shirahama Group.

Research

Research, Summary

We search for novel quantum phenomena emerged in materials such as helium and hydrogen at very low temperatures. Newly developed nano/micro-structures are utilized to confine helium and to study quantum phase transitions and topological superfluidity. I also study adsorbed molecular films to produce novel superfluid matter.
In order to perform ultralow temperature experiments without liquid helium cryogen, we have been developing tabletop cryogen-free dilution refrigerators and nuclear demagnetization refrigerators.

研究概要

 ヘリウムや水素などの量子性が強い分子集団が、極低温で示す新規量子現象の探索と解明を行っています。特に、微細加工技術によりナノ・マイクロスケールの空間を作成し、ヘリウムを閉じこめることで発現する量子相転移やトポロジカル超流動の研究、新しい超流動物質の開拓を目指した吸着分子薄膜の研究を進めています。
また液体ヘリウムを使用せずに超低温実験を行うため、新しいタイプの卓上型無冷媒希釈冷凍機・核断熱消磁冷凍機の開発を行っています。

Research details, to be updated

1.Molecular quantum films: search for novel quantum phases in both equilibrium and non-equilibrium conditions
2.Nano- and Micro- scale quantum fluids and solids
3.Superfluid study by nano/micromehanical devices
4.Cryogen-free tabletop dilution and nuclear demagnetization refrigerators

(テーマ1) 分子薄膜における新しい量子凝縮相の研究

1. 吸着薄膜における弾性異常の発見
 固体表面で形成されるヘリウム薄膜は、ヘリウム原子の面密度(吸着量または膜厚)を変えるだけで、バルクヘリウムには存在しない多様な量子効果・量子相を示します。白濱研では特に超流動相と局在固体相の間の量子相転移に興味を持ち、ガラス基板に吸着したヘリウム薄膜に対して弾性の測定を行い、薄膜の弾性が低温で増大する「弾性異常」を発見しました。この弾性異常の詳細な解析から、局在固体相が強相関電子系でよく知られるモット絶縁体に類似した「励起にエネルギーギャップを持つ固体」であり、超流動の発現は面密度の増加にともないギャップが消失した時に生じる量子相転移であることを明らかにしました(Makiuchi et al. Physical Review B98, 235104 (2018))。
 また同様の弾性異常をヘリウムとは異なる量子性を示す水素、ほぼ古典的な物質であるネオンの薄膜でも発見し、水素(H2)薄膜が超流動寸前の状態にあること、ネオン薄膜はほぼ古典的に振る舞うことも明らかにしました。
これらの結果は、長く謎であったヘリウム薄膜局在相について初めてギャップ固体という相同定に成功したとともに、弾性異常が吸着薄膜に普遍的な現象であり、その振る舞いは薄膜の量子性と密接に関連することを示したもので、下記の非平衡超流動の着想に結び付いています。

2. 吸着薄膜における非平衡超流動の探索
 ヘリウム・水素・ネオン薄膜における局在相の弾性異常より、有限のギャップを越えて励起された状態は、波動関数が空間的に拡がった状態であり、超流動を示しうることがわかります。そこでヘリウムや水素原子をフォノン照射により励起して、非平衡超流動状態を誘起する実験を準備しています。具体的には、超音波トランスデューサや超伝導トンネル接合素子により高周波音波・フォノンを薄膜に与えて、ギャップを越えて励起された原子分子の超流動を探索します。

3. グラファイト上4He薄膜における超流動性と剛性の共存
 グラファイトの蜂の巣格子表面に吸着したヘリウム薄膜は、面密度に応じて多様な状態を示すため、多くの研究がなされてきました。特に核スピンを持つフェルミ粒子である3He薄膜は、強相関フェルミ多体系や量子スピン液体としての性質に興味が持たれてきました。一方近年になってボース粒子の4He薄膜で、超流動に対する周期ポテンシャルの効果が注目され、超流動と原子密度波の共存状態や、量子液晶と呼ばれる状態が存在する可能性が提案されています。白濱研ではグラファイト上4He薄膜のリエントラント超流動と呼ばれる限られた吸着量領域において、弾性異常が生じることを発見しました。これは超流動状態が固体のような「硬さ」を持つことを強く示唆する結果で、超流動と固体という2つの異なる状態が共存する可能性を示す初めての例になる可能性があります。現在、詳細な測定を進めています。また、同様の固体超流動共存状態を示す可能性がある、h-BN(六方晶窒化ホウ素)表面上ヘリウム薄膜についても実験を準備しています。

(テーマ2) ナノ・マイクロスケール量子液体・固体

 ヘリウムが持つ量子液体・量子固体としての性質は、ヘリウムを狭い空間に閉じこめることで劇的に変化し、新しい量子現象を創出します。白濱研では初期の研究でナノ多孔体に閉じこめたヘリウム4において超流動とボースアインシュタイン凝縮が異なる温度で生じ、超流動状態が圧力によって絶対零度で消失する量子相転移を示すことを発見しました。現在、ヘリウム量子液体の新たな可能性を探求するため、シリコン微細加工や3Dプリンタを利用したマイクロ構造を作成して液体ヘリウムを閉じこめる実験を進めています。

1. ナノ構造中超流動ヘリウム4の流れ特性
 圧力誘起量子相転移を示すナノ構造中ヘリウム4に対し、高感度のダイヤフラム変位計を利用した超流動流れ特性測定装置の開発を進め、量子臨界点近傍での流れ特性の測定を進めています。

2. マイクロ構造を利用したトポロジカル超流動ヘリウム3の生成
 トポロジカル超流動体としての物性発現が期待される液体ヘリウム3を、シリコン微細加工や3Dプリンタにより作成したμm幅の平行平板に閉じこめることで擬2次元超流動を実現し、トポロジカル超流動状態での流れや超流動密度の測定を準備しています。また超音波実験から、擬2次元超流動状態に特有の集団励起モード(ヒッグスモード)を検出することを目指しています。

3. 超伝導ナノワイヤー振動子を用いた超流動ヘリウム研究
 超流動ヘリウム中で振動する物体に働く抵抗力の測定は、超流動状態を調べる重要な実験手段として古くから用いられてきました。白濱研では直径300nm程度のナノワイヤー振動子を超流動ヘリウム中で振動させ、量子渦生成や量子乱流の研究を行っています。ナノワイヤーとして、カーボンナノチューブにNbN超伝導薄膜をコートした構造や、3Dプリンタを用いた樹脂ワイヤーの製作を進めています。

4. 固体ヘリウム4の弾性とその回転効果
 固体ヘリウム4はボース粒子がつくる量子固体であり、原子が格子点間を頻繁に動きまわることに起因する様々な量子効果を示します。2004年のKimとChanによる超流動的挙動の発見により固体ヘリウム4の研究は著しく進み、その過程で固体が低温で異常な弾性率増大を示すことが明らかになりました。これは固体ヘリウム中の転位にヘリウム3不純物が束縛され転移の運動を阻害することに起因すると考えられています。白濱研では理化学研究所河野低温物理研究室との共同研究で、固体ヘリウム試料を回転させた時に弾性率が低下することを発見しました。この減少はヘリウム3不純物に対して回転によりコリオリ力が働いて転位への束縛が弱められるためであると解釈されます。

(テーマ3) 卓上型無冷媒希釈冷凍機・核断熱消磁冷凍機の開発

 希釈冷凍機は極超低温の生成に必須の装置として利用されてきました。その原理と構造は1970年代までに確立し、現在は国内外の約10社で商品化されています。21世紀に入り、希釈冷凍機は量子コンピュータをはじめとする量子科学技術研究に不可欠の基盤技術として用いられています。またそのほぼ全てが液体ヘリウム寒剤を使用しない無冷媒タイプになっています。
白濱研では最近の液体ヘリウムの供給難を受けて、扱いやすい卓上型希釈冷凍機の開発に着手しました。これは従来の吊り下げ型クライオスタットと異なり、実験机の上に置いて超低温度を生成することができ、実験の準備を著しく容易にまた短時間でできるようにするものです。更にこれを用いた核断熱消磁冷凍機を製作して、トポロジカル超流動体の諸研究に用いる予定です。